(
2010/12/24)
ナオチャラ
背骨にふれた指を通してきみが動いていることを知る。きみらしくなくてうれしいな。
自分の足が引きつるのに驚いて声をあげれば長い指がぼくの首筋に絡み付く。苦しくはない。むしろきみが与えてくれる息苦しさこそが快感だから。
紅蓮の眼がぼくを見る。膜の張った狭い視界の直中に漂うきみの眼こそぼくの手に抵抗を許さない枷で、手向かうようなまばたきをすれば溜まった膜が剥がれ落ちる。厭わしい。恥ずかしい。惨めに頬を濡らす涙さえ下心だ。このままきみをここに繋ぎ留めておく方法など検討もつかないままに体液を分泌しては濡らす。隙間を埋めるが如く。
呼吸器がか細くあえぐ。ぼくをこんなにみすぼらしい格好にしたのはただの人間のきみなのに悔しくはない。生きているきみの皮膚の流動や血管の躍動が清々しくまた官能的で、惹きつけられるぼくのほうは氷の体を持て余す。
もっとぼくをきみの思う通りに揺すぶってよ。このまま全部終わってしまえばいいのに。このまま全部過ぎ去ってしまえばいいのに。このまま全部拭い去ってしまえたらいいのに。
背骨は嬌声を上げ、脚の居場所も定かでない。汗となって溶ける腕に抱くきみの生命が一層熱く、言葉を捨てろと責め立てる。
我ながら頼りないな。
夜が明けるのを、身じろぎひとつせず見ていた。
始め呆れるくらいに冷静だった脳も途中から靄がかかってしまって歯痒いのだけど、しめやかに出入りするきみの感覚と酔いの抜け切らぬ爪先の痺れがぼくの中にきみの存在を見出す。
きみの寝息をこんな近くで聞く日が来るなんて思わなかったのだけど、きみは酔うた手付きでこともなげにぼくを押し倒してしまった。
きみの鎖骨のあたりに手を添える。
薄い肩口から、滑らかな筋肉を伝い、張り詰めて無駄のない首筋に辿りつくと、くっきりとした陰影をなぞる。
いとしいと思った。
かくしてぼくは本当にきみが好きであんなことを口走ったのかという不安は解消されたけどまだまだ胸の暗雲は晴れない。
昨日のきみの行動がすべてきみに許し難いものだったら、きみがぼくを認めなかったら、きみが否定したら、きみがぼくに冷たい目を浴びせでもしたら、ぼくは居たたまれないよ。
ぼくは今こんなにきみを抱き締めたいのに、もしきみが許してくれないならきみを殺してなかったことにしたくてそんなことを一瞬でも考える自分が一番許せないよ。
だってぼくの最善がきみの最悪かもしれない。怖いよ。きみの目を見たくないよ。安いと言って笑わないでほしいんだよ。
きみはぼくを拒絶するかもしれない。それでもぼくはきみを妬まない。殺さない。殺したくなどない。
そういう風に強い意志を頭に刻み込んで、それから日本語を組み立てて、やっとぼくはきみの綺麗な顔を捉えて物を言うことができるんだよ。
「誕生日おめでとう、ナオヤくん」
理性の内ではちゃんと決めているの。
ねえぼくは自分の満足のためだけにいつまでも一方的にきみを祝福し続けるつもりだから、気が向いたらこたえてね。
ランタナ
でもかわらないものってあるのかなとかかわっていくのは外見だけなのとかないうことでこのタイトルです。
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