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2025/04/21  [PR]
 

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 日和



「さよなら、太子」
彼は慈しむようにもうひとりの男の背中に優しく手を回してそして、
ベルトで容赦なく首を締めた。
そのベルトは先程出くわしたコロンブスから奪った物で、精密な細工が施されたなかなか趣味の良い洋物だったが、現在は只の凶器だ。
「…ぅう、ぐ」
首をギリギリ締め上げられている青いジャージを着た男はもう言葉にならない声を必死で絞り出そうとした。
ジャージには血がついたのか泥汚れか、所々黒い染みがついている。
疲労と、他でもない彼が襲ってきた衝撃により抗う力さえなくしたのか、三分ほどで気を失いぐったりとした。
彼、妹子はまだ息のあるその男を地面に横たえ、呟いた。
「………………あなたは、僕をひたすら構った。僕はそれが煩かったけど、多分、嬉しくて。いつまでもこのままでいられると勝手に、自分勝手に、信じていたんです。僕の気持ちも、いつかは自然に、伝わると……」
妹子はまるで、懺悔のように両膝を立て顔を伏せて言った。
「けれどきっともうあなたと僕の未来は絶望的だ。生き残るのは………ひとりです」
妹子は、きっぱりと言い切った。
そして恐怖に耐えるように、太子から貰った赤い、ただし今は赤黒いノースリーブのジャージを着たその身を一瞬抱き締めると、なめらかな動きでポケットからこれまたコロンブスから奪った拳銃を取り出した。
妹子は銃に詳しくないが、弾を詰めて打ち出す回転式のリボルバーと呼ばれる奴だというのはわかった。
試し撃ちもした。大丈夫。出来る。一発だ。一瞬だ。終わる。十分だ。
撃て。
「……いも、こ…」
今更遅い。引き金を。さあ、指をほんの少し曲げるだけだ。
「妹子…なにをっ…」
妹子が引き金に触れたその指を動かし、ばん、と音がするまでの時間は一秒もかからなかった。
結局、妹子の意図ではなかったけれど。
というのも、妹子の首に横から刃物が突き刺さり首の主要な血管を切断したその衝撃で妹子の握る拳銃の引き金が引かれたのだ。妹子の震える親指によって。
「妹子っ!妹子!妹子おおお!」
太くごつい短刀を右の首筋に受けた反動で妹子は左に傾ぎ、死に落ちるように倒れ伏した。
妹子に負けないくらい真っ赤な液体が、命と一緒にその口から溢れ出、死の香りが太子の鼻腔を掠めた。
太子はぼんやりと主人不在の身体を見詰めた。
まだ目は太子を見ている。
まだ顔は赤みがさしている。
今はまだ暖かい。
もうここにはいない。

「やあやあ太子くーん、大丈夫だったかい?」
「どうしたんですか、ぼうっとして」
茂みから出てきたのは太子と仲のいい閻魔と鬼男だった。勿論妹子とも仲がいい。
太子は近づいて来る彼らを何の感情もなくじっと見詰めた。
「どうして、殺した?」
「え?」
「どうして、どうしてどうして妹子を殺したんだ!」
「どうしてもなにも…自殺するとこだったじゃん?そんなの構わないでしょ?もしかしたらオレたちが見てるの気付いてて自殺するふりしてきみを殺そうとしていたのかもよー?」
「…そんなことあるわけない!ないんだふざけるな!」
激情を吐き出す太子を、鬼男は静かに見詰めているが、閻魔の視線は最初からずっと妹子に向いている。
「変な信用してんじゃないよ。確かにきみと妹子ちゃんはとっても親しかったね」
「それで?」
「うわーむかつくー。…だからさ、最後くらいオレにくれたっていいじゃんか」
そう言い放って、閻魔は初めて太子の視線を捕らえた。
「全部オレのものさ」
  さくり、
鬼男が後ろ手に持っていた細い刃物で太子の胸を貫き通し、その体を地面に放ると、太子は驚きと死の感触に目を見開いて唇を横に薄く引き延ばした。
「…きみはきみ自身に絶望する」
それは太子がここへ来て初めて見せた笑貌で、生涯最初の嗤詆で、生涯最後の笑謔だった。




「…コロンブスを殺したのは小野だったようですね」
「悪い奴だねえ」
「コロンブス、見事な撲殺でしたもんね。初めて見ました」
「残念だなあ妹子ちゃん、すごい素質だったよ…」
「…大王、聖徳太子が死に際に言ったこと…」
「うふふ。…もうとっくにしてるのにね、絶望なんて」
「……大王…」
「…そんなオレは嫌いかい?」
「いえ、
 虚無的なあなたが大好きです」

「殺したいくらい?」

「勿論」


     【残り2人】






結局天国ふたりに落ち着く。
というか行き着く。
バトロワ読んだんでかきたくなったんす。
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