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2025/04/20  [PR]
 

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汚れないように周りを見渡す。新月であるし、しくじることは避けたい。マグネタイトは取り込んだ。満を持してぼくは羽根を広げた。
「おっとと…うまく飛べないなあ」
それというのも悪魔の姿になるのが久しいからだ。横髪はよそよそしく棚引く。指と外気を隔てる布一枚がどうしようもなく煩わしい。
自分が変わってしまったことも、再び慣れることも恐ろしくてたまらない。不安定なぼくなど誰が望むかな。こんなぼくをわかってくれなくても仕方ないね。
でもわかってくれなくてもいいって投げたわけじゃなかった。でもきみの背中に触れたかった。長い指からキーボードを取り上げたかった。
百年越しの恋だった。永遠のような時間を経てようやく離れられないと分かった。
思い込んでしまったよ。
だからきみの部屋についた灯りを見た瞬間、自分が思い上がっていることに気づいた。
何を期待してわざわざ悪魔の姿になってまで、それも新月に、高層へ上り来たというのか。
あの小さな畳の部屋できみとぼくを照らしていたのとは違う光が今きみを輝かせている。
その上品な鼻筋を浮き上がらせる真っ白の電球を、きみは求めていたのか。
吐き気がして、同時に大きくなる重力を感じた。今ここで重力への抵抗をやめたとして、痛いのはぼくだけで誰も彼も知らないし痛くないと思うと急に死にたくなった。
「ロキ」
重く鋭い風の隙間から声が聞こえた。
ぼくはこっちに手を伸ばすきみを言葉もなく見ていた。
「ロキ」
溢れそうな涙が問題なのではない。今だって喜びと後ろめたさに打ち据えらせている。
浅ましい魂胆の望み通りにならないで。深く根付いた後ろ暗い気持ちもきみにばれてしまうよ。
ぼくはきみから離れられないのに平気で近づいたりしないでほしい。
「ボクにむりやりやさしくしなくていいよ」
きみは目尻を下げて曖昧に微笑んだ。そんな仕草みたことない。
「おまえが好きなのに?」
その言葉で絶望の淵に叩き落とされた。
ぼくを白い指で絡め取って抱きしめたきみは本当に美しいね。
ぼくは姿を差し替えて、人の形できみの肩にすべてを投げ出した。
きみの笑顔は韜晦ではないかという疑念を持てれば少しはこの気持ちを持つのも楽だったはずだ。ぼくはきみが欲しいみたいだから。
でもそれって、正しくないから。
「怖いよ。明日もずっとぼくのそばにいて欲しいのに、きみは必ず変わってしまう」
ぼくを欺いてよ。いつかきみがぼくを突き放すときそれを偽りだと思えるように。
ぼくはきみに痛みしか返せないとわかってる。今だってぼくの薄皮はきみの体温を奪っている。
「俺は変わらない」
きみはいまだかつて見たことのないほどたおやかに唇を歪めた。人に優しくされたんだね。ぼくじゃその笑顔を作れない。
いつかぼくの息の根を止める指が背中をなぞることでぼくを無力にしていくのを一種の快感として捉えるのは容易いのだ。



はましお






新月新月言ってるのは密会なんですかね魔王さまが寝る日なんですかね
要エアーリーディング

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