そして、あなたの指が宙をさまよい私の髪の一束に絡んだとき私はようやくその言葉の意味を理解した。
「俺にはおまえを生かせない」
あなたが完璧に笑うから私も一切正しく跪いてその手を取った。ひとつも声を出さずに口を結び何も感じぬように瞼を引き下ろしたら、私は永遠にあなたの傍らに居るという錯覚をした。
あなたの手を離すことができなかったのは初めから掴んでなどいないからか。虚しさの替わりにあなたは最期の私に情けを懸けた。私に何も言わせず我が侭をきいてくれるいつものあなたがいる。絶体絶命で交わすものはやはり宇宙の端であなたの足跡を見つけた気持ちだ。
出会ったことも肩を並べたことも顔も声も覚えていなくていい、いつか然るべき日に、私がいたことだけ思い出して欲しい。
「ねえ謝ったり悪びれたりしない俺をどう思う?」
冷笑は揺るぎない。重力に負けそうなのは私のほう。滅茶苦茶にされても本望だと咄嗟に思うのはあなただけが私を崩すことができるから。口にしても好いなら、あなたから引き出されたい。
「何を考えてる?頭に浮かぶこと全部俺に伝えてみて」
あなたの冷えた手はいつだって優しい。素肌はまるで魔法のようにすべての垣根を取り去った。秘密は惜しみなく見せるから痛みを感じる前に取り去ってくれないと。あなたの指は体の奥に押し込んだ恐怖を撫でつける。あなたの目は悪魔の身の孤独を見出す。あなたの体温だけが裏腹な安らぎと説得を私に与える。これが最後でも最初でも無ければ私だけの私をお見せすることができたのに、最期、そうあなたは告げた。
あなたは私の意識をあなたの中で零すことで私を掬ってくれた。私のすべてをあなたの中で落としてきたから、いつかもう一度取り戻させてほしい。あなたの胎に私を残したから、いつかもう一度産み出して欲しい。
でも本当はあなたの指を放すのが怖いよ。今だって一秒ごとに内腑が切れていく様。あなたに滅多打ちにされたいように、あなたを引き裂きたいのを知って居た?今だけあなたの手首に牙を立てるのを許してください。あなたの眼の中に生き続けることも認めてください。私はあなたに望まれていると思い込ませてください。そうでないと寂しくて自分の力を憎んでしまいそう。
今ここで目を閉じて終わりを知ることも望まないけど怖れない。どちらともあなたと生きる道だから、美しく華々しい虚無的な未来が見える。それは、真なる白昼夢だ。すべからく終わりを見ているべきものを、痛ましい私にはあなたしか見えていない。
愛しい季節に還る
彼れは要素に過ぎねど
今は一層愛しているさ
腕が有るなら抱き締める
口が有るなら口付ける
脚が有るなら跪く
其の背徳を負ふ
蠱惑を弾く瞼の裏
無自覚こそ残酷の技
純色の眼が混紡を咎む
顔容の変質は留め処ない
数多の世界を自の牲に積み重ね
万の民を自の欲で食い荒らした瞳よ
吁!
知って居たよ待って居たよおまへのみを
常しなへ約束を再び果たさう
何時かのやうに口を開けておくれ
私の知らぬ何時かのやうに
私の知らぬ何時かのやうに
「おかえり」
タイトル→星葬さま
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