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2011/11/05)
アクさく未満
特に自ら関わっていくこともなかったから高校生になるまで気づかなかったけれど、夜道ですれ違う男性に底暗い恐怖を覚えて駆け出したときようやく自分は絶対的に男の人を拒んでいるのだと悟った。
ペニスなんて大嫌いだったし低い声は耳障りだったし節ばった手は醜く不格好に見えた。
しかしそんなことよりは、自らが時間の埃を被った記憶の笠の下に残された、生きた内でたった一瞬の瑣末な出来事の影響下にあるのが情けなかった。下らないものに崩された自分が悲しかった。
だからあなたのわびしい目の中に私の姿を見たとき絶望した。私にかかった呪縛はあなたを許さないと分かっていたから。それなのに狡いばかりの私はあなたの胸に自重を預けた。ためらいやとまどいはいつもあった筈なのに、その瞬間には見つからなかった。今は途方もない罪悪感もいつかは消えてなくなるって、私はあなたに全身で応えられるって、私はおかしいくらい私を信じていた。
あなたの睫が触れるのに驚かなくなったころ、私たちは夜半を二人きりで過ごす機会を得た。
私は服を下ろし肌を整えよく眠り髪を梳き爪を切って臨んだ。
「ごめんなさい」
私はやっとのことで背けた体をソファに埋めて何度も何度もごめんなさいと呟くことであなたの動きを止めた。私はあなたの優しさを利用したのだ。あなたの強い力さえ、私に決心を促す優しさによるものだと知っていたのに。
あなたは私のシャツの下にあった手を引き出してシャツ越しに私の背を撫でた。それでも胸騒ぎがする自分が大嫌いだ。あなたが好きなのに。そのとき「あきらめないけど、無理強いはしない」と聞こえたような気がしてたとえ幻聴でもうれしかった。心ではこんなにあなたを求めているのに、あなたの掌を許せない。
そしてあなたはソファを下りた。引き留めることが許されるのか分からなくて、ぼやける白い背を目の端で追うことしかできなかった。恥ずかしいことに、こんな反応しかできなくてもあなたが恋しかった。浅ましいかな、私はあなたと朝を見たいの。
シーツ
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