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2025/04/20  [PR]
 

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滂沱する彼を抱き留めることしかできない腕。
抱きしめて喜んだのちに何を留めるのか。
彼が泣いている理由すらわかっていて、心を留めるすべをまだ知らないというのに。
「ロキ、悲しいよ」
意地悪な間のあとの意地悪な言葉。
大袈裟に心を揺すぶるそれらが涙に濡れて大層なまめかしく僕の気を引く。
抱き留めることは容易だ。
僕が彼を愛しているから。
引き留めることは容易だ。
彼が僕をだいすきだから。
あいされることは困難だ。
彼が僕をだいすきだから。
戸惑いの果てしなく苦々しい味が胸一杯に広がっていく。
「ナオヤくんを手にいれたいんだね」
「うん」
「彼を愛しているの?」
「うん」
力強く頷く首筋を無意識に指でなぜる。
生まれて初めて、衝動的に、人を殺したいと思った。
しかし彼はあくまでも僕のことがだいすきなのだ。
だから、僕が側に居るよ。と言ってしまえば、彼は僕を、あいするみたいに好いてくれるだろう。いつものように。錯覚に気づいたらおしまいだ。 けれど。
だから、僕が手伝ってあげるよ。と言ってしまえば、彼は僕を(今までのすべてを忘れて)ずっと好いていてくれる。僕はそうして彼が誰をあいするかも知っているの。
「僕が、」
進めば虚構の勝利。
退けば真実の敗北。
どちらかを選ぶこともできない僕は、ひたすらに腕のなかの青い髪の匂いを覚えようとしていた。


世界中にだいきを


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