「…………なら、もう期待などしない」
問い詰める兼続に政宗が告げて、気持ち良い早朝だというのにふたりの間には重く暗雲が垂れ込めました。
それからもう政宗は兼続を見ないのです。
兼続はその日憂鬱に嘆息することもままなりませんでした。
空虚な心に喪失感が溢れる感触に、どうすることもできないのです。
思惑を受け止める携帯電話
三成は期待していました。
政宗は中々の頭を持っているので生意気さに苛立ちたまに対立はしますが、基本気になる存在だったのです。
兼続は三成の親友ふたりの内のひとりなので一応大切です。ただいまいち幸せに逃げられる感のある男だったのでまともな恋愛はできるのか疑問でした。
それで、言葉にすると青臭いけど、ふたりが恋愛関係にあるというのは、三成にとって嬉しくないことではなかったのです。ツンデレです。
しかしまあ、いきなり別れるとはなにごとでしょう。昨日三成は委員会でひとり居残った際、ふたりが仲良く下校するのを確認したのです。
階段の踊り場で校舎から生徒がいなくなる時刻まで他愛ない会話をして、やっと切り出しました。
でも兼続は詳しいことをなにも教えてくれません。
ただ辛そうに唇を噛むだけでした。
「おまえはそれでいいのか」
三成の両の目が兼続の視線を絡めとったので、兼続はその場に釘付けにされました。
「俺は力になれないのか。何故そうなるに至ったか、教えてくれないか?」
三成はしつこく頼みます。それしかできません。
「……昨日…」
兼続はようやく口を開きました。とても珍しくとろとろ話します。
「いつも通り帰った。だが政宗が急ぐとかで、家まで送ってはいかなかったのだ。帰ったのは5時くらいだった。そして今朝、家の前に来いと言われ、行ってきて…」
「政宗はなんと?」
「……もう期待などしない。と言われた」
三成は考えました。
きっと政宗になにかが起こった末にそういう決断を余儀なくされたに違いない。と。政宗の本意ではないと。現に昨日はあんなに兼続に親しげだったのだ、間違いない。しかし我ながらあまりにさもしく恣意的な考えだ。
「……幸村」
「む?」
「幸村はどうした?」
「幸村も今日は学校を休んでいたが…それがどうしたんだ、三成」
「…いや、」
三成の背を這う悪寒は、悪い予感を発展させます。
確かに日頃幸村の政宗を見る目には尋常ならざる光があったのですがしかしそれは、小さな身に有り余る智才を持つ政宗への尊敬の眼差しだと思っていたのです。
三成は自らの予覚に震えました。
幸村が政宗に乱暴をできない証拠などどこにありましょう。彼は三人の中でも一番体格の良い屈強な男なのです。
「まさか…っ」
「三成?どうしたのだ、顔色が…」
「か、兼続。携帯持っていないか」
「先程充電が切れたが…?」
「…ちっ、」
三成は携帯を鞄ごと下駄箱に置いてきているので、すぐさま階段を駆け下り始めました。
兼続が名前を呼び追いかけてくるのがわかりました。
たどり着いて携帯を開くと、たった一件だけ着信がありました。
勿論政宗です。
三成はすぐさま掛け直しボタンを押して下駄箱を出、下駄箱から死角になっている壁の陰に隠れました。
そして、二回目のベルで名前を呼ばれた三成は、兼続を学校に置いたまま政宗の家へ向かったのです。
「風邪ひいて死にそうだというのに兼続あの野郎知らぬ顔で学校行きおってええ!!」
「ズコー」
「風邪と気づきもせんで…!兼続に二度と期待はせぬわ!…どうした三成」
「いや、そういう、オチかと…」
「そういえば幸村は家族で旅行らしい。土産を頼むなら今のうちじゃ」
「そうか…」
「そういえば幸村に今度話があるから心しておけと言うようなことを言われたのだが…なんじゃろうな全く」
「政宗貴様…今更フラグを…。いや、まず兼続に電話を掛けろ、話はそれからだ」
「いやわしも風邪としらせないまま気づかないことに腹をたてたことに反省して電話掛けようと思ったのだが…」
「………なるほど」
「あやつ…携帯充電切れしてやがった…」
「………」
「おい、三成、どこへ行く?」
「ちょっとイカしばいてくる」
「兼政的展開なかったからな。行ってこい」
まあ。そんなかんじで。
青春したいね。と。
タイトルが伏線だったんだね。
最後にゆきまさを振ってみた。無駄な抵抗。