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2025/04/20  [PR]
 

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なにやらチャラ男がおとめいてます\^ω^/わーい
つまり通常運転










きみの手が異様に白かったことだけが僕を今現実へ引き戻す引き金として目前に突きつけられている。未だそれを引くことを躊躇する僕は恥ずかしいな。
虚ろな人間の目を通してもきみの白さは際立って、目を背けることを許さない。
ただ今きみが向き合うのは僕じゃなくてあの子だから、僕の思考は受け入れられない儘に迷走してしまう。
彼の歪んだ性格をなぞることなら簡単だ。僕はもっと幻滅すればいい。
いつもきみは正しく間違っていた。
きみはいつも正しく僕を打ちのめした。
「おまえは何もするな」
そう言うたび角が立つのをきみはいつまでも知らないようだったじゃないか。
「ねえそれってどういうこと?」
僕の方も常に同じことを言った。
きみのいうことのひとつもわかりたくないのにそれでも訊ねてしまう。
「そのままの意味だ」
「ボクはなんにもしないって言ってるじゃないなんで何度も言うの僕に隠したいことでもあるの」
「ただ俺一人で充分だと言っているんだ」
「は、ボクが邪魔なの?」
訊ねるとき僕ははいつも素直だったと思う。
きみは僕の心地など察することなく赤く冷たく僕を射抜くのだ。
「邪魔だ」
歪んだ双眸も虚しいほどにまっすぐのきみは意地さえ純色で、そう気づいてしまうと僕の言うことはぜんぶ潤色されていると思い知らされる。きみに手を伸ばすふりをしてひたすらその指を求めているあさましい僕はいつも衝撃を受けた。
そして衝動的に叫ぶ。
「ボクがいないとなんにもできないくせに!」
部屋が静かになる。
きみの茫然とした顔を見て僕は傷つけるのが目的じゃないことにやっと気づく。
そんなふうに思っていたのかと問うように揺れた眼はやがて僕から逸らされ、瞼に覆い隠される。
「取り消せ」
その一言でいつも終わる。

又或る時は、あは、と声が出た。
「ナオヤくんはボクを信じてないんでしょ?だから、ボクもきみを信じていないのかもよ」
「黙れ」
「何が黙れだか」
「俺のことなどひとつも知らないくせに」
「そうだよ知らないよ。きみだってまるでボクを知らない」
そういう時きみは失望をちらつかせてそっぽを向く。痛くはないと思い込めずちゃらした僕のほうが馬鹿みたいに苛々する。
大体こんなふうに有耶無耶にすることが僕らの得意とする所で、隣に座る互いの心地を推し量ることもしなかった。
勿論彼は歪んでいたけど、僕も好い加減に等閑だった。
彼のようにまっすぐ歪むことさえできないほどに螺子曲がってしまった僕を愛する人なんて間違ってもいやしないと、思って、わかってはいたんだよ。
きみはいつでもかなしいことを言った。僕はいつでも平気できみを傷つけた。
それでもきみが側にいることには文句を言わなかったから僕はきみがそれで許してくれているものと思っていた。
今ならちゃんとわかる。
それはきみのあきらめだった。
僕をあきらめていた。そういう現象だと思おうとしていたんだよね。僕にしたって僕などわけがわからないもの。当然だよね。その当然が苦しいんだけど。
哀しいと言っても信じちゃくれないのが一番哀しい。きみが僕の本当を流してしまうことが一番辛い。本当がどこにあるのかは、問われてしまえばわからないけど。

カラン、
という下駄の音で黒い指先の浮ついた現実感が俄かに崩れた。
僕の網膜に焼き付いた儘のそれと同じに白い手が、滑らかに動く。それはもう生きているみたいに。
無機質な床に貼り付いた足の感覚が甦る。
無意識で壁に頼り切った腕の感覚が甦る。
無気力に睫を閉め切った眼の感覚が甦る。
無気味を盾に震え続ける心の感覚が甦る。
きみはあの子に触れて、ちいさく、呟く。たぶんそれは恋慕の告白。きみの前にはあの子しかいない。きみの目にはあの子しか映らない。
どうして僕を絞め殺してくれなかったの。どうして僕を閉じ込めてくれなかったの。僕をどうもしてくれなかったのが一番僕を圧し殺すけど嬉しくないよ。
君は僕が期待をするたび踏み躙った。君が僕に期待をしないことが、順接なのになぜかなにがなんだかわかんなくて認めたくなくて、立ち竦む足に気づいてしまう。
しかして僕にはもう今ここで足を動かすことだってできない。否最早立っていられない。頽れる体を支えることはもうできない。
ぜんぶを道化てしまったのは、なんでだったかな。でも考えることに意味はないと知っているから、意識を潰してきみの顔をそのまま目に映す。
おかしくてしかたないみたいにやわらかにゆるやかにとろける唇の曲線。どうしようもないいとしさとこいしさとひとさじのさみしさとをないまぜにしたような眼の光彩。よろこびにみちしかしひとつとしてとりこぼすことなく形を変える頬。
きみがそうやって笑うのを、僕だってずっと黙って待っていたんだよ。





イノックアーデン









タイトルは、ネタバレとも言う。


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