もう迷うことはない。
幸村は抱き締めた小さな体を放さないまま口の中で呟いた。
幸村幸村と掠れ声で囁く政宗の唇を首許や肩口で遊ばせ、幸村は物憂げに夕日に染まった世界を眺めた。
祈りではない何らかの感情を込めて脳裏に浮かべる言葉は、変わり往く世に停止を告げるべきことを仄めかす内容ばかりで、もしや自分は別に関係のない考え事さえその結末を指すと思い込んでいるのではないかと疑ってみさせる程だった。
しかし経過は違おうとも描かれる結末は寸分も違わない。
そして実行するのは幸村だ。巻き起こす出来事が変わることなどない。幸村の顛末は初めから変わらない。彼の思いが磨りきれるなんてことが目下の目的を達成するまでにあるはずがない。
然し最終手段。それはまさに結果より簡単に通る。
なぜなら、必死で自分に縋りつくこの子供は全て承知しているから。そして幸村の言葉なら一も二もなく承諾することを知っているから。
嫌でも肯定するだろう。
厭でも快諾するだろう。
それも知っている。
そうせねばならないと夜具で懇到に教え込んだのは幸村で、さもなくばどうなるかは僅かな示唆で気付かせた。
滲む景色と気色ばんだ政宗の目に意識を揺らされ、幸村は無意識に無機質な笑みを取り作った。無為ではない。彼を慕っているから。
これから侵す罪を尻目に、慕っている、などと心の内ではあるが迷わず言ってのけた幸村を政宗は許すだろう。
そして自分にも聞こえないように呟いた。
もう迷うことはない。
いのちぎり錯覚
もっと彼が愚かだったら良かったのだ。
聡い彼は交わす想いの正確な結果、二人の続かない未来、行為を重ねた末に見える新たな心境、それら全てに須く答えがあるべきだと思えたのだろう。
唯それだけなら恋の深みに嵌まった者は少なからず体験する葛藤でしょう。
然し私には実行するための力があり、腕ずくで貴方を閉じ込めたいと、迂闊にも、願って、しまった。
貴方の所為、
命限(いのちぎり)→命かぎり。
これのタイトルはまるで心中を馬鹿にしているみたいだ。
文字で目が痛くなる仕様。
テーマ、魔女/旅に/出る
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