こんなオレが赦されるならきみは業を全て解かれていい筈だろうに。
だからきみを思うと身動きがとれない。
「きみはこんなに痴愚なのにね」
そしてそいつはがわかりきったことを鏡に映したような笑みで言うのだ。
わかりきっているのに思い知らされるのだ。
「きみは私と違って本当に劣っているんだから、いい加減諦めろよ。彼にとってもいい迷惑だろうさ」
「いやだ…」
「彼はもう此処にはいないんだよ」
「いやだ!なんでオレを放って置いてくれないんだ!」
「放ってもいいけど、鬼男には会わせないぞ」
その冷めた目が神経を逆撫でするんだ。
やめろ。立場をわきまえろ。
「ああもう閻魔大王の名だったらくれてやるよ!さあいいだろオレを鬼男くんに会わせるんだ!」
「私が閻魔大王になったらまず先代を地獄の底に落っことす」
「……結局きみはなにがしたいんだい?」
「きみを、否定したい」
「オレ、妹子ちゃん生き返らせただけじゃん」
「……本当は、手に入れそびれたものを、手に入れたいだけなんだけど」
「…妹子ちゃん?」
「違う。ただひとつだけ、……永遠だよ」
その笑顔はまるで狂気のように張りついている。
オレはこいつとは違う。
確信して、椅子に腕を掛けた。鼻唄でも歌いだしたい気分だ。
「じゃ、閻魔大王の名前あげるよ」
「え?」
「それっ!」
オレは帽子を遠くに投げてそれをそいつが追うのを認めて叫ぶ。
「オレの部屋の鍵つき棚に入ってるものもきちんと確認しておかないとなれないよー!」
叫ぶなりオレは走り出した。
「おやおや、もう仮閻魔大王になっちゃってるようだね。やっぱりきみほどの聖人ならなれちゃうんだねえ。今やオレより偉いねえ。ああ、落としたければ落とせばいいさ。ふふん。閻魔帳があるならね。ない?おかしいね。ああ。地獄の片隅で灰になってるんだったよ。きみも優秀な秘書につくってもらわないとね。さて、閻魔大王。きみはまだ自分の義務と権利についてよく理解できていないようだね。確かに閻魔大王は魂を天秤にかけるものだ。」
ただし、と続ける。
「…生きている人間に手出しはできないんだよ。太子くん」
そして、オレは、
白眉の君を白痴の僕に
十代後半と見える少年は、アパートの階段を上がった所で立ちつくした。
「あ、」
もう体がすっかり動くことを忘れてしまったような、戦慄。
「……やあ…ひさしぶりだね」
少年の部屋のドアの前に立っている二十代と見受けられる黒髪の男は、はにかんで優しく言った。
「オレの名前は×××××。よろしくね」
ふたりは交わらない運命の外側で、再び互いを抱き締めた。
まあ、そんな感じ。
×××××はやっぱり名前だよ。
そんで閻魔が太子のために妹子ころしたらおもしろいと思う。
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